算数の学びと指導ー市原式

唯物弁証法の視点から算数教育を見直した小学校教師の著作集

算数教育に於ける教条主義の克服(5)

 ここで<一般→特殊>方式による授業展開と<特殊→一般>方式による授業展開を比較検討してみよう。

 わたしは、5年の(分数)÷(整数)を次のように二通りの方法で指導してみた。

  • [註] 水道方式では、(分数)÷(整数)は(分数)÷(分数)の退化した計算として指導することになっている(わかるさんすう 遠山啓監修 麦書房刊)。また、“教師のための数学入門”(遠山啓著)では、“もちろん分数×分数の予備定理(lemma)として、分数×整数、分数÷整数は必要になるが、それは1時間か2時間やればよいことであって、新指導要領のように5年の1年をかけて定着させるのは損である”と述べている。

さて、(分数)÷(整数)を(分数)÷(分数)の前に指導することを一応認めた上で、つぎのように<一般→特殊>方式と<特殊→一般>方式で指導してみた。

 

a <一般→特殊>方式

わたしは

”2/3 aの畑の草を、3人でひくと、1人は何aの草をひけばよいでしょう。“

という問題を出し、

上のような図で、直観的に

となることをみいださせた。つづいて同じ広さの畑の草を4人でひく場合、5人でひく場合について考えさせ、

になることを確かめさせてから、 の計算は  で求められることにきづかせた。子どもたちは図の上でも、そうなることを確認した。

 しかし、この授業では、子どもたちの大きな感動をみることはできなかった。

 

b <特殊→一般>方式

わたしは

”6/7ℓのミルクを、2人で等分すると、1人分のミルクは何ℓになるでしょう。“

という問題を出した。子どもたちは、下の図を見ながら、

(分数)×(整数)の計算で、分子を整数倍にしたことを思い出し

 

と答えを求めた。

 同じ量のミルクを3人で等分する場合も  で求められることを図で確認した。つぎに

“2/3ℓのミルクを、5人で等分すると1人分は何ℓになるか。”

を考えさせた。勿論、今度は分子がわり切れないので子どもたちは一瞬たじろいだ。しかし、だんだん挙手するものが出てきた。わたしは

T “分数を変身させたらどうだろうか”

と助言した。子どもたちの挙手は増えた。

 兼村式と水谷式が発表された。

そして兼村式から水谷式が説明された。

 この時の子どもたちの感動は、とても大きいものがあった。子どもたちは、分子が整除されるという特殊な場合を足場に、分子が整除されない一般的な場合の計算方法を発見したのである。

 わたしは、<一般→特殊>方式を否定しているのではない。時には、<特殊→一般>方式の方がより教育効果をあげ得る場合のあることを示したかったのである。

 

6. おわりに

 わたしがこの講座で述べたかったことは、子どもたちが授業に感動し、算数が好きになるためには、わたしたちの中にあるすべての教条主義を振り払い、自由で科学的で生き生きした授業を追求することだということである。

 そして、真理の基準を実践に求め、実践の中で理論をたしかめ、また、実践を通して新しい理論を発展させるべきだということである。

(おわり)

 

( 掲載雑誌は不明。1980年代の掲載と思われる)