算数の学びと指導ー市原式

唯物弁証法の視点から算数教育を見直した小学校教師の著作集

教えたいことを 教えないで学ばせるには(1)

ーその1 素材についてー

 

1. チューリップの授業

 “教えたいことを教えないで学ばせる”には、その前提条件として、どのような素材をとりあげるかという問題があります。

 ずいぶん、古い話ですが、わたしがかつてある小学校の校内研究会に招かれたときのことです。当時は、二年生で10いくつの数から基数をひいて基数が残る、いわゆるくり下がりの計算を指導することになっていました。わたしがみせていただいた授業は、その導入のところでした。

 先生は、教科書通りチューリップを素材にとりあげて

“にわに、チューリップが13ぼんさいています。6ぽんとると、あとなんぼんのこるでしょうか。”

という問題を出されました。子どもたちは、いろいろな考えを発表しました。せんせいは、その中から特に減加法をとりあげて、全員に徹底させるため図解しながら丁寧に説明されました。

「まず、チューリップを10本と3本とに分けます。10本から6本とると、何本ですか。」「4本です。」

「そう、4本ですね。では、4本と3本ではいくつになりますか。」

「7本です。」

 授業は、成功したかのようにみえました。ところがこの減加法を、おはじきでたしかめる段階になって授業は混乱しはじめました。

 第一に、多くの子どもたちが、おはじきを10個と3個とに分けて並べようとしません。先生は、あわてて机間巡視しながら、

「10個と3個とに分けて並べるのですよ。」

と、ひとりひとりに注意されました。

 第二に、子どもたちは、6個をとるのに10個の方からとらないで右側に並んでいる3個の方を先にとるのです。それでは減加法に結びつきません。

「6個とるのは、10個の方からですよ。」

と、先生はまたくり返し注意されました。

 しかし、子どもたちにとっては、なにもおはじきを10個と3個に分けて並べる必要性も、先に10個の方から6個をとる必然性もないのです。チューリップにしても同じです。1本ずつとっていくことを考えれば、数えひく方法か、減々法の方がより自然な考え方といえるのです。はじめ減加法の考え方を発表した子どもも、おそらく事前に家庭で教えてもらっていたか、それとも教師からいろいろな考え方を求められて、減加法でも考えられることに気づいたのだと思います。

 結局、この授業は、教師の考え方を強引におしつける結果に終わりました。“教えたいことを教えないで学ばせる”授業には、ならなかったのです。

(つづく)

 

(算数数学指導 小学校編 大阪書籍(1976年) さんすう・しどう・ノートより)