算数の学びと指導ー市原式

唯物弁証法の視点から算数教育を見直した小学校教師の著作集

定着を確かにする練習の方法(1)

1. はじめに

—認識と定着とのかかわり—

 “定着を確かにする練習の方法”といっても、やはり、認識とのかかわりを無視することはできない。

 学習心理学でも、理解学習と暗記学習では、理解学習の方が把握・定着がよいことは定説になっている。また、同じ理解学習であっても、発見学習と受容学習では、その把握・定着においては、発見学習の方がよりすぐれているといわれている。

 したがって、1年の繰り下がりの計算でも、減加法を導くのに、子ども自ら発見しやすいように素材を工夫することが大切である。そこで、遊園地の豆自動車を素材にして前から順に出て行くといった場面を設定すれば、減加法を発見させることは、それほどむずかしいことではない。

 

1)じどうしゃが 13だい とまって います。まえの じどうしゃから、じゅんに 9だい でて いきました。あと、なんだい とまって いるでしょうか。

(1)しきを かきましょう。

(2)けいさんの しかたを かんがえましょう。

 

もちろん、何時いかなる場合も発見させるというわけにはいかないが、少なくともあることがらを定着させる場合、その形式のもつ意味を正しく理解させることは、重要である。

 例えば、25×3のタイプの計算を定着させるためには、その計算手続きだけでなく、その筆算形式のもつ具体的意味を理解させることが大切である。したがって、そのような計算のしかたの前に、⑩や①のドットを使ったり、数式で表現したりして、その意味の理解を図るとよい。

 

2)1まい25円の切手を、3まい買います。みんなで何円になるでしょうか。

 なお、ここで強調しておきたいことは、形式と内容との照応ということである。

 25×3という計算では、筆算形式がその内容に照応しているが、20×4とか200×6という計算では、横書きの暗算形式が照応している。20×4とか200×6という計算は、筆算では空位のある特殊なタイプの計算であって、234×2といった一般的な計算よりも誤りが多いことは承知の通りである。とくに80×5といった計算では、40とする子どもがかなりいる。これを暗算形式でやれば、位ごとに機械的に計算するのと違って、数の大きさを意識して計算するので、かえって間違いが少ない。

 

1)20円の切手4まいでは、何円ですか。

2)30円の切手4まいでは、何円ですか。

3)200円の切手6まいでは、何円ですか。

 加法・減法にしても除法にしても、全く同じことがいえる。

内容に照応しない形式が定着しにくいことは、当然なことであろう。

(つづく)

 

(1980年代の掲載。掲載雑誌は不明。特集 認識と定着から)