算数の学びと指導ー市原式

唯物弁証法の視点から算数教育を見直した小学校教師の著作集

酋長の算数(2)

 つぎの“ケーニヒス・ベルクの橋の問題”を考えてもらいましょう。

 これは、位相数学といって現代数学の対象になる問題です。

「ケーニヒス・ベルクの町に図のような七つの橋がかかっています。この橋を、どれも一度ずつ、しかも二度とわたらないで、もとの位置にもどることができるでしょうか。」

というのです。

 一つやってみてください。

 なかなかできないと思います。

 できないはずです。この問題は、オイラーという有名な数学者が、その不可能なことを、すでに証明しているのです。

 では、そのオイラーに代わってかんたんに証明をしてみましょう。

 まず、A、 B、C、Dの四つの地区は第二図のように○で、またそれぞれの橋は、1本の線で表します。

 しかし、A、 B、C、Dの地区は、べつに大きさをもたなくてもかまわないので、第三図のように点で表して考えることにしましょう。

 さて、A、 C、Dは、どれも三本の直線がでています。ところが、それらの点は、どの点を出発点にしても、同じ点が終着点にはなりません。

 Bもまた同じように出発点にすると、終着点にはなりません。

 即ち、出ている直線の数が奇数のときは、みな出発点と終着点とは一致しないことがわかります。

 だから、このケーニヒス・ベルクの橋は、どれも一度ずつ、しかも二度と同じ橋をわたらないで、もとの位置にもどることは、不可能なのです。勿論、オイラーは、もっと厳密に証明したのですが、このようにあの複雑なケーニヒス・ベルクの町を第三図のように、単純な図にかえて、その問題の本質を抽象し、論理的に考えをすすめるところに、数学の特徴があるのです。

 したがって、算数の学習では、たんに計算の方法を理解し、図形の名前を記憶するということだけではなく、こうしたものごとの本質を抽象する力とか、論理的に正しく考えを進めていく力を養うことが大切なのです。

(つづく)

 

(掲載雑誌は不明。1960年頃の著作と思われる。)