算数の学びと指導ー市原式

唯物弁証法の視点から算数教育を見直した小学校教師の著作集

さんすう すらすら(3)

Ⅲ. 数字を教える

—“ドット”を使って—

 

1. 1から10まで一挙に

 1年生の算数の教科書を調べてみると、数字が出てくるのは、どれも4月の下旬か5月になってからです。学校ではどんな勉強をするのだろうかと大きな期待をもって入学したこどもたちは、なかなか数字を教えてもらえなくてがっかりしてしまいます。ところが1ヶ月ほどたつと、こんどは1から10までの数字が一挙にでてきます。そしてたくさんの数字を一度に教えられて、筆順もしっかりのみこめないまま先へ進んでいくことになります。

 しかも、このあとででてくる数の増減や数の合成分解では、また数字が消えている教科書があります。そのため、数字と具体数との結合が弱く、抽象数の計算をするようになったとき大きな抵抗を感じさせる一つの原因にもなっています。

 数詞や数字は具体的な物の数との結合がなければ、こどもたちにとって意味をもたないのです。しかも数詞や数字と具体物との結びつきは一度教えればできるというものではありません。

 

2. 「2」から始める

 それで私は、入学して1週間の算数入門期の指導では、集合づくりと1対1の対応による数の比較が終わると、この具体数と数詞と数字の結合を重視して一挙に1から10までの数字を教えるのでなく、””を1時間、“1”を1時間、”3”を1時間と段階を追って指導しました。

「人間のからだのなかで、耳のように二つあるものはなんでしょうか」—私は、両手で耳をひっぱりながらたずねました。こどもたちは「目も二つあるよ」「手も二つですよ」「足も」「ほっぺも」「ボインも二つだよ」と両手でおさえたり、両手をあげたりしてつぎつぎとみつけました。

「じゃ、耳と同じ数だけ、指を出してごらん」

「こんどは、目と同じ数だけ」

「そう、目も耳も数は同じだね」

「それでは、耳と同じ数だけタイルを並べてごらん」

「二つのことを“に”といって“2”と書くんだよ」

わたしは“すうじの2は、なあに、おいけのがちょう”ガアガア“とうたいながら、黒板に大きく2という数字を書いてやりました。そして2という数字をみて、具体数がおもい浮かべられるように、図のように赤いチョークでドット(水玉模様)を書きました。こどもたちにはクレヨンで2という数字を書く練習をさせました。

 

3. 「6」からはタイルで

 1より2を先に教えるのは、子どもたちの数の認識は”2”が先で、統一としての“1”はその後になるからです。1は事物そのものと固く結びついていて抽象がむずかしいのです。

 つぎの日は“2”という数字カードを見せて数詞をいわせたり、その数だけタイルをならべさせたり、えんぴつやおはじきをとり出させたり、手をうたせたりするおけいこをして、こんどは“人間のからだのなかで一つあるものをみつけさせ”1“の指導をしました。

 こうして順次”3””4””5”---と1時間に一つずつ、もちろん復習もとりいれながら具体物やタイルと結合させて数字を教えていきました。このときの数字とドットの結びつきをつぎに書いておきましょう。

“6”からはこどもたちの直観数をこえることからドットでは示さないで、つぎのように、はじめは”5のびんづめタイル“、のちに”5のかんづめタイル“を使って表しました。”5のびんづめタイル“とは、5個つないだタイルの区切りが見えるもの(タイルの表)”5のかんづめタイル“とは、5個つないだタイルの区切りが見えないものです(タイルの裏)。

(つづく)

 

新聞「赤旗」に掲載。掲載時期は不詳。1980年代と思われる。