算数の学びと指導ー市原式

唯物弁証法の視点から算数教育を見直した小学校教師の著作集

2022-01-01から1年間の記事一覧

おわりに

2022年7月から12月にかけて、発表年代を遡る形で「市原昇の著作集」を投稿させていただきました。内容上、重複のみられる著作もあえてそのままの形で公開しました。若い頃に、すでに弁証法を意識した教育論がみられ、教育実践を通して発展してきたのがわかり…

水道方式のさんすう(5)

ここで、数と計算の発展的は体系について考えてみましょう。 子どもたちは、はじめ十以内の計算をするとき、指を使います。指は、子どもたちにとって最も身近かにあり、しかも、十以内の計算をするのに大変便利で信頼のできる計算方法です。指算という形式は…

水道方式のさんすう(4)

わたしは、という型の計算をつぎのように指導しました。 子どもたちの前に、ボール紙で作った大きな貯金箱をみせ、その貯金箱にお金が23円入っていることをあてさせ、つぎに10円玉は左に、1円玉は右に整理して入れてあることをひらいてみせました。 そ…

水道方式のさんすう(3)

では、どうしてこうした“水道方式による計算指導”が叫ばれるようになったのでしょうか。それには、深い理論的な根拠もありますが、一つには、今までの計算指導が、やはりコチコチのゆで卵にしてしまう指導法が多くとられてきたからです。 を指導するとき、先…

水道方式のさんすう(2)

しかし、水道方式の計算指導で一番問題になる点はを筆算形式で指導する場合、一の位から計算していく必要感を、子どもにどうしてもたせるかということです。 事実、わたしが調べた結果では、家で筆算の方法を教えられた特別な子ども以外は、全員が暗算の方法…

水道方式のさんすう(1)

毎日新聞に “水道方式のさんすう”の紹介があってから “水道方式とは、どんなものか” という質問をよくうけます。 そのPRが “みんな算数の優等生になる”というのですから、試験地獄に心を痛めておられる世のお母さん方の頭へきたのは当然です。 今回、水道方…

酋長の算数(4)

二年生になると、12−3、12−9といった十いくつの数から奇数をひく計算の指導をすることになっています。 この計算のしかたは、いろいろありますが、むかしから減加法と減々法という二通りの方法が多くとられてきました。 減加法というのは、 13−6 の…

酋長の算数(3)

一、二年の子どもたちに、図のような正方形をみせて、「このような形をなんといいますか。」と問うと、なかなか「ましかくです。」とは、こたえてくれません。“ましかく”というのは、つぎの図のように、安定した位置におかれた図形だと思っている子がかなり…

酋長の算数(2)

つぎの“ケーニヒス・ベルクの橋の問題”を考えてもらいましょう。 これは、位相数学といって現代数学の対象になる問題です。 「ケーニヒス・ベルクの町に図のような七つの橋がかかっています。この橋を、どれも一度ずつ、しかも二度とわたらないで、もとの位…

酋長の算数(1)

数学というと、もう頭からむずかしいもの、頭が痛くなるものと、思い込んでおられる方が多いと思います。たしかに数学はそうした一面を具えています。しかし本当に数学は、むずかしく面白くないものでしょうか。 一方、数学は大変重視されています。それは、…

子どもの論理(12)

Ⅱ. 除法の形式についても、全く同じことがいえる。除法の形式には、つぎの短除法形式(A)と長除法形式(B)とがある。 ただし、短除法は除数が一位数の場合に限られた計算形式であり、長除法にはその制限がない。 さて、最近では、最初から長除法形式で指導…

子どもの論理(11)

数えたし、数えひく形式に代わって、念頭による暗算形式がとり入れられると、子どもたちの計算能力は急速に発達する。それは暗算形式が、数えたし数えひく形式に比べて、20+30、43+26といった計算内容に正しく照応しているからである。 43+26…

子どもの論理(10)

6. 子どもは、現実的に考える Ⅰ. 今から十年も前の話である。当時は、加法九九、減法九九を指導したら、直ちに筆算を指導することが常識になっていた。 筆算で計算すれば、どんな大きな数でも位取りの原理にささえられて、桁ごとに機械的に計算していけば、…

子どもの論理(9)

それから10年後の今年、再び5年生の子どもを担任して、わたしはこの5月また0を処理するかけ算の指導をした。 “つぎのかけざんを、暗算でしましょう。” といって、わたしは黒板に 30×2 とかいた。子どもたちは、”こんなの、わけない“といった様子で一…

子どもの論理(8)

5. 子どもは、帰納的に考える。 わたしが、教壇に立ってまもない頃の経験である。 3600×4といったかけ算で、0を処理して計算する方法を指導したことがある。 “3600円は100円ざつで何枚ありますか。“ ”36枚です。“ “そうですね、そうすると、…

子どもの論理(7)

さて、いろいろなものの数を心象によってとらえることが、抽象数による計算への橋渡しになる理由を考えてみよう。 その理由は、いろいろ考えられるであろうが、1つはそれらの具体物がもつ色とか形とか位置を自由に変形させたり、簡素化したり捨象したりする…

子どもの論理(6)

4. 子どもは、具体的に考える 30+20、50−15---が、わからなくても、これをおかねで考えさせると、わけなく計算する子どもがいる。これは誰もが知っていることである。 わたしが1年生を担任していたとき、図のような情景を黒板にかいて “よしおく…

子どもの論理(5)

異分母分数の大小を指導しているときであった。 下の問題で と導いたとたん、Sが立って答えた。 “先生、わかった。分母も分子も小さい方が大きくなるのやね。” わたしは、全くがっかりした。 Sは、たまたまそのときの分数が分母・分子ともに小さい方が、大き…

子どもの論理(4)

3. 子どもは、経験から考える 5年生で、小数の乗除を一通り指導した直後 ”125÷0.75の答えは、125よりも大きくなると思うか、小さくなると思うか。“ とたずねてみた。 その結果、48人中26人は125より小さくなると答え、22人が125より…

子どもの論理(3)

この9月15日に行われた岐阜県算数教育研究会の大垣市興文小学校の授業では、つぎの問題で指導してみた。 ”1㎗45円のサラダ油、3.3㎗のねだんは、何円になるでしょうか。“ 子どもたちは、1㎗45円のサラダ油、3.3㎗のねだんがおよそ45円の3倍…

子どもの論理(2)

2. 子どもは、すなおに考える。 5年生の5月だった。 わたしは、整数かける小数の計算を指導しようとして “1ℓが65円のすを、0.3ℓ買います。何円になるでしょうか。” という問題を黒板にかいた。 やがて、子どもたちのノートには とかかれた。そして ”…

子どもの論理(1)

1. 子どもの論理 下のような問題で、 (整数)÷(小数)の計算を指導しているときであった。 “先生、ちょっとおかしいことがある。” と、突然Nが立ちあがった。 “先生、240×4.8のときは、240を10で割って24として、4.8を10倍して48として…

計算力向上の問題点と対策(2)

さて、もう一つの点は、従来の計算指導が、数と計算との関係を発展的にとらえないで、静的・形式的にとらえ、数範囲を10までに限って、その中でこうした計算に習熟させようとしたことである。実際、子供たちにとって10までの数範囲の計算では、何も念頭…

計算力向上の問題点と対策(1)

<指算から暗算への移行> はしがき 二年生になると、3+4とか8−6といった結果を、念頭で自由に求められるようになることが要求される。 しかし、こうした計算指導の段階で、子供たちが行う計算の仕方をみていると、はじめのうちは、ほとんどの子供が指…

学習に興味をもたせるには(3)

第3の条件 事実に即した考え方を大切にすること。 事実を無視した無理な考え方を子どもたちにおしつければ、学習に対する興味をなくすのは当然である。しかし、実際になるとこのすじの通らない考え方を、ずい分子どもたちにおしつけていることがある。 ある…

学習に興味をもたせるには(2)

第2の条件 問題意識をもたせ、子どもたちの思考活動を大切にすること 問題意識がなければ、学習に対する意欲も興味もわかない。したがって、如何に問題意識を持たせるかが極めて大切である。そして、子どもたちにおのずから考えさせるようにしむけることが…

学習に興味をもたせるには(1)

第一に実生活との結合を重視する よい授業は必ず子どもたちにとって、興味のある授業である。子どもたちに興味がなく彼等の積極性が発揮されない授業に、よい授業は決してない。しかし、興味のある授業がすべてよい授業であるとはいえない。よい授業は少なく…

暗算と筆算との関連について(2)

2.暗算と筆算との弁証法的統一とその実践的帰結 算数教育における根本矛盾とその発展法則を知って、正しい科学的な体系を打ち立てなければならない。 算数教育における根本的な矛盾は、子どもたちの思考が具体的であり、総合的・内容的であるのにたいし、…

暗算と筆算との関連について(1)

1. 計算指導に於ける過去の誤った教育方法に対する批判 算数教育も他のすべての科学と同様、成長と発展の見地から考察されねばならない。戦後、出版された教科書をひらいてみると、最近の2、3の教科書を除いてすべて筆算形式を取っている。これは昭和26…

10までの加法・減法を どう指導するか(3)

4. 減法について 減法も加法と同様、基礎減法(①〜③)と複合減法(④〜⑦)に分けた。その分類を簡単に示しておこう。 ① 3−1型 2−1、3−1、4−1、5−1、6−1、7−1、8−1、9−1 ② 4−2型 3−2、4−2、4−3、5−2、5−3、5−4 ③ 7−2型 7−…