教えたいことを 教えないで学ばせるには(4)
―その2 概念の形成―
1. 数学思想史から
ピエル・プートルだったか“数学思想史”の中で、「出来上がった科学と、作られつつある科学とを区別しなければならない。」という意味のことを述べていたように記憶しています。
完成された数学と算数教育の違いも、まさにこの出来上がった科学と作られつつある科学との相違に似ていると思います。いうまでもなく、数学の大きな特質は、その抽象性、論理性、形式性にあります。したがって、算数教育でもその抽象性、論理性、形式性のもつ、すばらしさを理解させ、それを駆使する能力を養うことがたいせつです。しかし、同時に“算数を創造する能力”というか、抽象する能力、正しい論理を導き出し、よりよい形式を生み出す能力を培うことも極めて重要です。
2. 概念の形成
数自体、すでにそれは抽象の産物です。しかし、算数教育では、その抽象的な、数の概念を、子どもたちの頭脳の中にいかに形成するかが課題です。
テレビのコマーシャルで、子どもが風呂からあがるとき「いち、に、さん、し、---くじゅう。」と唱えているのがありますが、そうした方法でいくら数詞が唱えられるようになっても、それだけで正しい数概念が形成されないことは、自明の理です。
また、“3”という数概念は、“3個のおはじき”だけをどんなに繰りかえし数えさせてみても、それだけで正しい“3”という数概念を形成することはできません。
“3”という数概念は、「3本のチューリップ」,「3個の植木鉢」、「3個のシャベル」---など、いろいろな具体物の集合を“3”という同一の信号、即ち、数詞や数字と結合させ、それらの集合の要素のもつ色、形、大きさ、有用性など、いろいろな属性を捨象してはじめて形成されるのです。また、そのようにして形成された数概念でなければ、それを普遍化し、他の現実的な数を処理することも不可能です。
(つづく)
(算数数学指導 小学校編 大阪書籍(1976年) さんすう・しどう・ノートより)