教えたいことを 教えないで学ばせるには(3)
4. “整数÷小数”の指導
わたしは、何回か5年生を担任しました。5年生では、以前から、整数わる小数を指導することになっていました。わたしが、はじめて5年生を担任したときのことです。24÷4.8の計算は、下のように除数、被除数共に10倍して240÷48と考えて計算すればよいことを指導しました。
ところが子どもたちは、それでは、答えも10倍になるのではないかというのです。子どもたちは、240×4.8を計算するには、240を10でわって24とし、4.8を10倍して48として、24×48で計算してよいのに、わり算では、どうして両方共10倍するのかというのです。若かったわたしは、その説明にとまどいました。図解したり、式を変形したりして、なんとか理解させようとしました。けれども、子どもたちは、どこかでごまかされているようだというのです。
ところが、その後、
“24cmのテープから、4.8cmのテープは、何本とれるでしょう。”
といった素材をとりあげることによって、このような、とまどいはしなくてすむようになりました。整数わる整数の計算になおすには、cmをmmの単位になおせばよいことに着目させ
と計算すればよいことを、無理なく導くことができるようになったのです。
数理自体は、抽象的であり、普遍的なものです。それは素材の現実的意味を超越した一般的な真理です。しかし、その数理の発見過程では、いきなり一般的真理である数理が、天上から地上にやってくるのではなく、それまでの数理の到達点や、個別的で具体的な実在がよりどころとなっているのです。
“数学者も、自分の定理と方法を発見するために、モデルや物理的類推を用い多くの個別的な、まったく具体的な例にたよったりする”といわれています。
したがって、私たちが授業で素材を決定する場合も、数理という天上の世界から、地上の素材を見るだけでなく、地上の素材から天上の数理がいかに無理なく引き出せるかという観点にたって、典型的な素材を選ぶことがたいせつです。
(つづく)
(算数数学指導 小学校編 大阪書籍(1976年) さんすう・しどう・ノートより)