算数の学びと指導ー市原式

唯物弁証法の視点から算数教育を見直した小学校教師の著作集

さんすう すらすら(8)

Ⅷ. 差とのこり

—まんじゅうの食べかた—

 

 いま、日本の教科書は、ほとんどが減加法で指導することになっています(前回参照)。しかし、私は、減々法で指導するほうがよいと思います。

 

1. 残りを求める問題

 第1の理由は、素材の面からです。減加法がよいのは、おかねの場合と、もうひとつは二つの数の量の差を求める場合です。二つの数量の差を求める場合は、基準をそろえてくらべることから、当然、10との差をまず求めます。しかし、ひき算の導入教材としては、差を求める問題よりは、残りを求める問題のほうが、こどもの抵抗がすくないようです。

 減々法がよいのは、残りを求める問題です。ひき算の導入教材には、残りをもとめる問題が多いのです。

「みかんが15こあります。8こたべました。みかんはなんこのこっているでしょう」

 この場合、こどもたちは、おそらく、ひとつ食べると14個になり、ふたつ食べると13個になる。だから、5個食べると10個になる。だから8個食べるにはあと3個食べればよいから、10個ひく3個で7個になる、と考えるにちがいありません。こどもにとっては、10個からさきに8個をひく道理がないからです。

 では、10がたばになっている場合はどうでしょう。

ノート10冊を1たばにしたのと、バラのノート3冊をしめして、「ノートが13冊あります。6冊使うとなん冊残るでしょうか」とたずねると、こどもたちは、まずバラのノート3冊を使うことを考えるでしょう。バラのノートをそのままにしておいて、せっかくたばねてあるノートをくずすことはないからです。

 こうして、こどもの日常経験を考えると、減々法につながるもののほうがはるかに多いのです。

 

2. 思考上すっきり

 第2の理由は、減法は減法だけで処理するほうが思考上すっきりするからです。減加法ではひいてたすという処理になりますが、減々法では2回にわけてひくという処理をすればよいのです。しかもそれは、くり上がりの加法の全く逆の操作でもあります。

 第3の理由は、筆算をおこなう場合でも、減々法が、減加法よりも単純な思考になるからです。

 たとえばつぎの計算。

一の位は、3と7では4たりないから10から4をひいて6。

十の位は、6から5をひいて1。

百の位は、4と7では3たりないから10から3ひいて7。

千の位は、5から3ひいて2。

 位ごとに、あまればその数をかき、たりなければ、その数の10にたいする補数をかけばよいのです。(前問一と百の位の計算で、4の補数は6、3の補数は7)。

 これを減加法でおこなうと、一の位は、3と7をくらべて、ひけないことをみて、十の位からかりてきて10ひく7は3、これを一の位の3にたして6、というふうに計算過程に加法がはいりますから、複雑です。

 

3. はんぱから食べる

 わたしは、こうした理由から、つぎのように指導しました。

 まず、10個入りのまんじゅう1箱と、1個だけ、2個だけ、3個だけ---はいっているおまんじゅうの箱をいろいろ用意してから、13ー4、12ー3、15ー6---という計算を考えさせました。

 これを減加法のやり方でいくと10個入りのほうから食べることになりますから、あとでどちらかにまんじゅうを移してまとめなければなりません。

 うちで減加法をならってきた子も、減々法のほうが便利だと認めました。減々法なら、はんぱのほうをまず食べて、足りない分を10個入りから食べればよいからです。こどもの考えは、明快で、リアルなものです。

(つづく)

 

新聞「赤旗」に掲載。掲載時期は不詳。1980年代と思われる。