算数の学びと指導ー市原式

唯物弁証法の視点から算数教育を見直した小学校教師の著作集

さんすう すらすら(7)

Ⅶ. 減加法と減々法の使いわけ

 

1. 1年生からくり下がり

 以前は、2年生でしたが、いまは1年生で12ー3、13ー6といった10いくつの数から基数をひいて、基数が残るいわゆるしり下がりの計算が出てきます。

 この計算の方法には、数えひく方法、加法の逆と考えてやる方法などいろいろありますが、むかしから減加法と減々法の2通りの方法が多くとられてきました。

 減加法というのは、13ー6のとき、まず、10から6をひいて4、4に3をたして7とする考え方であり、減々法というのは、13から3をとって10、10からのこりの3をとって7とする考え方です。

 

2. チューリップとおはじき

 いまからもうなん年も前、わたしはある学校で、2年生の算数の授業をみました。その授業は、ちょうど、13ー6の計算を導入するところでした。

 先生は、黒板に、教科書と同じように、13本のチューリップを10本と3本にわけて書いて、10本のほうから6本をひき、のこった4本と3本をたして、こたえをもとめればよいとていねいに説明しておられました。

 そのあとで、こどもたちに、おはじきを使ってこの計算方法をたしかめさせようとされました。ところがこどもたちは、おはじきを、区切りなしにならべて、その端から6つをとってしまうのです。

 

これでは、10ひく6は、4、4たす3は7という減法の考え方には結びつきません。

 その先生は、いささかあわてて「13は、10と3でしょ。だから10と3にわけてならべるのですよ。そして、10のほうから6をとるのです」と、声を大きくして注意されました。

 

3. 子どもたちの考え 

 ところが、こどもたちのほうは、先生のいうことがのみこめないようすでした。こどもにとっては、おはじき13個から6個をとる場合、10個と3個にわけて、10個のほうから6個をとらねばならない理由はないからです。こどもたちは、先生が黒板にチューリップの絵をかいたときも、花だんに咲いているチューリップを想像して、1本ずつとっていくことを考えていたのでしょう。だからチューリップやおはじきでは、13から3をひいて、さらに3をひくという減々法のほうがすなおで自然な考え方なのです。

 もし、ここで減加法を理解させたいのだったら、おかねを使えばよいのです。

 13円もっていて、6円のものを買う場合、3円をさきに出す子はいないからです。いやおうなしに10円をだして6円のものを買い、4円のつりと手持ちの3円で7円残るという計算になります。

 

4. どちらがわかりやすいか

 なお、導入の段階では、どのような数値をもってくるかも吟味する必要があります。

 減加法の場合は、13−9のように、減数の10にたいする補数が小さい場合がいいのです。それは、13−3=10、10−6=4という計算よりも10−9=1、1+3=4という計算のほうが容易だからです。

 減々法の場合は、13−4のように被減数の一位の数と減数との差が小さい場合がいいのです。それは、10−4=6 6+3=9という計算よりも13−3=10 10−1=9という計算のほうが簡単だからです。

 このように、教師が期待する考えを導くためには、素材や数値などを十分に吟味しなけらばいけません。

(つづく)

 

新聞「赤旗」に掲載。掲載時期は不詳。1980年代と思われる。