教えたいことを 教えないで学ばせるには(8)
―その4 形式と内容―
1. 五・二進法の役割とその限界
一年生のくり上がりの計算をどう指導するかということで、“現代化算数指導法辞典”では“10の補数でやるものは、くり上がりの減加法にも一貫するし、9+2型など有利だが、これまでの5・2進法が生かせず、7+6型などむずかしい。
「両者併用は---(中略)---映像化に困難である。」
ということで、5のかんづめの偉力を発揮できる5・2進法をとるのが効果的である“
と述べています。そして、タイルを利用して
5と5で10、3と1で4、だから14
5と5で10、4と4は 5と3 だから8、
それで18。以下略
といった指導法を解説しています。
たしかに五・二進法は、くりあがりのない10までの範囲の計算では有効です。くり上がりのない計算で抵抗の多い4+3なども(4+1)+2と五・二進法を採用することによって数え足す方法によらないで一層確かな計算力を身につけさせることができます。このことは、私の実践からも同じ結論を得ています。
しかし、この五・二進法をくり上がりの計算にまで適用すると、かえって計算過程が複雑になって、子どもたちには抵抗が多くなります。十進法によれば、9+3など(9+1)+2と二段階で計算できるのに、五・二進法では、(5+4)+3=5+(4+1)+2=5+5+2---といった思考過程を経て計算しなければなりません。五・二進法を主張する人々は、かんづめタイルの利用と算法の形式的な一貫性をたいせつにしているようですが、そのため現実をみない観念論に陥っているようです。
形式は内容に照応しているとき積極的な役割を果たしますが、内容にあわなくなった形式は逆に否定的な役割すら果たすことがあります。
くりあがりのない10までの計算範囲では、人間の直観できる数が4ないし5までであること、それに片手の指の数が5本であることなどから、五・二進法は確かに有効です。五・二進法によって、答えが10までの計算範囲では、自由にできるようになり数観念もより確かなものになります。五・二進法は、答えが10までの計算に照応した形式として積極的役割を果たします。
しかし、計算範囲が拡大されくり上がりのある計算になると、これまでに積極的役割を果たしてきた五・二進法は、かえって複雑で否定的な役割を果たすことになります。そして10の補数に着目する計算法に席をゆずることになるのです。
10の補数に着目する計算法は、これまでの計算で10の補数をみつけること、数の合成・分解が容易になっていること、五・二進法によるよりも計算過程が単純であることから自然の理にかなっているのです。(この10の補数に着目したくり上がりの計算指導の実際については、本誌1月号参照のこと。)
答えが10までの計算範囲で五・二進法が有効だったという理由で、くり上がりの計算にまで五・二進法を適応しようとするのは、卵の殻がその生命を守るうえで重要な役割を果たしたからといって、ひよこになってもその殻の中に閉じ込めておくのと同じです。即ち、事物の成長と発展を弁証法的に正しく捉えられない形式主義にわざわいされているのです。
(つづく)
(算数数学指導 小学校編 大阪書籍(1976年) さんすう・しどう・ノートより)