算数の学びと指導ー市原式

唯物弁証法の視点から算数教育を見直した小学校教師の著作集

つまずきの診断と解消ー1年・計算分野(1)

1. つまずき・おくれを累積させないために

 つまずき・おくれの診断と解消は、指導の過程でその都度行われるべきであって、学年の終わりになって、まとめて取りざたされる性格の問題ではないが、やはり1年のしめくくりとして総括的に診断し、その解消に努力することは、つまずき・おくれを累積させないためにも、必要なことである。

 

2. つまずき・おくれの診断

 診断の方法については、日常の指導過程における観察や特定の子どもを抽出して行う個別的な観察が第一に考えられるが、ここではまずペーパー・テストによる誤答分析から述べたいと思う。

1)誤答分析による診断

 誤答分析にあたっては、まず出題する計算の類型を吟味すること、そして、少なくとも同じ類型の問題を4〜5個用意することである。同じ類型の問題を出題するのは、単なる不注意に基づく誤答と、間違った理解に基づく誤答とを区別するためである。不注意に基づく誤答は、同じ型の問題であっても、他の問題では正しく答えられているのが普通である、間違った理解に基づく誤答は、他の問題でも同じような誤りを犯しているからよくわかる。

 つぎに、1年の計算分野における主な誤答のタイプを下記の診断用問題例に基づいて2,3述べておこう。

 

 

(1)6+2=7、7−4=4

 これは、数えたし、数えひきの操作の誤りからくる誤答である。6+2を6、7とかぞえたしたり、7−4を7、6、5、4と数えひくことからくる誤りである。ただしこのような数えたし、数えひきによる誤りは大書(大阪書籍)の教科書を使用しているところでは少ないはずである。

(2)30+6=37、4+50=55

 これは、0を1と混同することからくる誤りである。

(3)4+50=90、54−4=5

 これは、位取りに対する不注意または、位取り記数法についての理解不足からくる誤りである。

(4)24+4=10、28−4=6

 これは、24+4を2+4+4と計算し、28−4を2+8−4と計算することからくる誤りで、記数法の意味が正しく理解されていないためである。

 この他、減法を加法と誤るなどいろいろな誤りが見られるが、基本的な誤りとしては、

(ア)基数相互の加法及びその逆の減法が身についていない。

(イ)位取り記数法の理解ができていない。

(ウ)0の意味が理解できていない。の3つに要約できよう。

 

2)観察法による診断

 つまずき・おくれを診断するには、たんにペーパー・テストによる誤答分析だけでは不十分である。誤った理解からくる“つまずき”については、ある程度わかるが、計算能力の“おくれ”をみることはむずかしい。たとえ正しい答えが求められていても、指を使って計算したのか、念頭で計算したのかとなると、その結果を見ただけでは、正しい判断を下すことができない。—時間制限によって判断するという方法も考えられるが、このレベルでの計算では、指を使って結構速く答えを求める子どもがいて、客観的尺度とはなり得ない。—しかも、1年生の計算能力の“おくれ”は、この念頭で求められるか否かに一つの基準があるといってよいのだから、どうしても教師の眼による観察法によらなければならない。

(つづく)

 

(掲載は1982年1月6日。掲載雑誌は不明)