算数の学びと指導ー市原式

唯物弁証法の視点から算数教育を見直した小学校教師の著作集

つまずきの診断と解消ー1年・計算分野(2)

3. つまずき・おくれの解消

 さて、誤った理解・理解不足に基づく“つまずき”に対しては、個人カルテに基づいて、個別に指導することが大切である。その場合、形式的理解を急がず基本にもどって具体的事実と結びつけて理解させること。たとえば4+50を90と誤る子どもに対しては、ブロックや数え棒を使って4+50が54になることを具体的に理解させることである。

 しかし、計算能力の“おくれ”に対しては、たんに具体操作をくりかえすといった方法だけで、それを解消することは困難である。

 わたしが、2年生のMを担任した時、Mは4+2を〇〇〇〇+○○として、○の数をかぞえて計算していた。話を聞くと1年生のあいだ中、その方法をくりかえしていたというのである。けれどもついに念頭で計算できるまでには到らなかった。そこで、わたしは、まず1から10までの数象をMの頭の中に形成することをねらって、つぎのようなカードをくりかえし見せ、数が即座に言えるようにした。

 つづいて、加法を基礎加法(大書しょうがくさんすう1ねんP28、29にでてくる加法)と複合加法(大書しょうがくさんすう1ねんP30、31にでてくる加法)に分析し、そして具体操作を通して数理を導き、それをイメージ化して念頭で計算できるようにした。その結果、Mは一ヶ月足らずで10までの加法が念頭でスラスラできるようになった。

 したがって、計算能力はたんに具体物による操作をくりかえせば身につくというものでなく、具体物をよりどころとしながらも、どれだけ具体から離れて観念の上で処理できるようになるかが、能力を測る尺度となる。

 最近、具体操作が強調され、なんでもかんでも具体物を操作すればよいといった風潮が一部に見受けられるが、具体操作、念頭操作、記号操作に結合させ、一面的な指導に陥らないよう心したいものである。

(おわり)

 

(掲載は1982年1月6日。掲載雑誌は不明)