算数の学びと指導ー市原式

唯物弁証法の視点から算数教育を見直した小学校教師の著作集

学習に興味をもたせるには(1)

第一に実生活との結合を重視する

 

 よい授業は必ず子どもたちにとって、興味のある授業である。子どもたちに興味がなく彼等の積極性が発揮されない授業に、よい授業は決してない。しかし、興味のある授業がすべてよい授業であるとはいえない。よい授業は少なくとも教科のねらい・本質を正しくふまえていなければならないからである。

 さて、算数科の本質・ねらいを正しくふまえ、子どもたちにとって興味のある学習指導は、どのような条件を備えていなければならないだろうか。

 第1の条件 実生活との結合を重視すること

 先日も“2+38の計算を筆算で指導したが、下のような誤りをする子どもがいて、こまっている。位取りについてやかましくいったがなかなか直らない。どうしたらよいか”。と相談にこられた先生があった。

大阪書籍(大書)の小学算数では、こうした計算は暗算で指導することになっている。>たしかに、この計算の誤りを形式の上からだけみれば、位取りの誤りとしてみることができる。しかし、これは単に位取りの誤りとして簡単に片付けるわけにはいかない問題である。子どもたちがこうした誤りをするのは2とか38という数が生活から切り離され、数の大きさが実感として把えられていないところに、大きな原因がある。

 そして、そのような指導が子どもたちの興味を失わしめている理由でもある。

 十年ほど前から“はいまわる”経験主義の学習指導が批判されて、教科の本質・系統が重視されるようになった。このことは大変結構なことであるが、しかし、そのことは教科と実生活との結合を軽視してよいということではないのである。数の概念に例をとっていえば、単に数詞が唱えられ、数字が書けるというだけで、正しい数概念が得られるものでなく、実生活の中で多くの具体物を数え、処理する中ではじめて得られるものだからである。

 教科と実生活が正しく結合され、生活的側面と数理的側面との正しい統一こそ、子どもたちの真の学力を保証し、真の興味を呼びおこす第一の条件である。実生活から切り離された内容のない形式だけの指導で、子どもたちの興味をよびおこすことができたとしても、その指導はよい授業といえないであろう。

 さらにここで算数科の指導が、子どもたちの生活課題、子どもたちをとりまく地域の課題、日本の課題に応えられるような素材をとりあげることができれば、一層生き生きとした算数指導が保証されるであろうことをつけ加えておきたい。

(つづく)

 

(1950から1961年頃の著作。掲載雑誌は不明)