算数の学びと指導ー市原式

唯物弁証法の視点から算数教育を見直した小学校教師の著作集

教えたいことを 教えないで学ばせるには(2)

2. どのような素材をとりあげるか。

 では、この減加法を“教えないで学ばせる”には、どのような素材をとりあげればよいのでしょうか。

 それには、おかねを使うのがいちばんです。

 おかねを使えば、13円もっていて9円のものを買うのに、3円を先に払ってから、また10円を出すようなことは、しないからです。当然、10円を出して1円おつりをもらい、手持ちの3円とあわせて4円ということになるからです。

 また、二つの数量の差を求める場合も、減加法に結びつきます。二つの数量を比べるには、基準をそろえる必要から、10との差に着目させやすいからです。

 この場合、13−9という数値も、導入段階では軽視できません。減加法を導くためには、13−9のように、減数の10に対する補数が小さい方がよいのです。13−3=10、10−6=4と計算するよりも10−9=1、1+3=4と計算する方が簡単だからです。

 

3. 子どもの思考は現実的

 子どもたちの思考は、現実的で具体的です。彼らの思考は、原理から出発するのでなく実在から出発し原理を導き出すのです。教師や教科書は、指導要領に基づいて素材を決定しますが、子どもたちにとっては、数理が先にあるのではなく、素材が先にあるのです。しかも、子どもたちの思考は素材のもつ現実的意味に大きく制約されます。数理はその必然的な帰結として導かれるのです。

“にわにチューリップが13ぼんさいています。6ぽんとると、あとなんぼんのこるでしょうか。”

という素材からは、13−3−3という減々法が

“13円もっています。9円のものを買うと、いくら残るでしょうか。”

という素材からは、10−9+3という減加法が導かれるのです。

 したがって、わたしたちは授業をする場合、どのような素材を選べばよいかということについて細心の注意を払う必要があります。素材の適否が授業の成否におおきくかかっているからです。即ち、授業は、素材によって大きく制約を受けますが、その反面、素材のもつ現実的意味を生かすことによって“教えたいことを教えないで学ばせる”有効な手がかりとすることもできるのです。

(つづく)

 

(算数数学指導 小学校編 大阪書籍(1976年) さんすう・しどう・ノートより)