算数の学びと指導ー市原式

唯物弁証法の視点から算数教育を見直した小学校教師の著作集

子どもの論理(12)

Ⅱ.

 除法の形式についても、全く同じことがいえる。除法の形式には、つぎの短除法形式(A)と長除法形式(B)とがある。

 

 ただし、短除法は除数が一位数の場合に限られた計算形式であり、長除法にはその制限がない。

 さて、最近では、最初から長除法形式で指導されることが多いようである。それは、長除法形式には除数の制限がなく、同じ形式で、機械的に計算ができるというよさを持っているからである。

 しかし、長除法では、つぎのような場合あまりにも形式的で、子どもたちの現実的な思考と一致しない。

 

子どもたちは、”なぜ、4や6をわざわざ下へおらさないかんの、そんなめんどうなことせんでもいいでしょ“

というのである。

 たしかに、このような計算では、長除法形式を採り入れる必然性は全くない。子どもたちにとっては、この形式が将来2位数以上の数で割る場合に便利だということはわからないし、たとえ教師がそう説明しても、実感をもつことができないからである。

 これも形式と内容の不一致が、子どもの現実的な思考とあわないためである。

 したがって、除法指導ではつぎのように内容と形式とを一致させ、発展的に取り扱わねばならない。

 

(1)600÷3、320÷4

 これは、3年の内容である。この段階では、勿論、積算形式を採り入れる必要はない。横書きのままで暗算でやらせるのがよい。これを積算形式でやらせると、かえって位取り毎に形式的に計算するので、数の大きさに対する実感を失い、下のような誤りをおかす子どもがでてくる。

 

 

(2)846÷2,903÷3、124÷4

 この段階から4年で取り扱う。そして積算形式を採り入れる必然性がでてくる。それは、九九の適用が2回以上となり位取りを考慮しなければならないからである。しかし、いきなり積算形式を持ち出すのはよくない。やはり最初は横書きのまま暗算で求めさせ、あとから積算形式を指導するのがよい。子どもたちは数の大きさを一々考えなくてもできる積算形式のよさを理解する。

 

 尚、ここで長除法の形式を指導する必要はないが、将来長除法を指導する立場から、記号は  でなく  を採用するのがよい。

 

(3)852÷3、6924÷4

 この程度の計算も、長除法でする必要はない。

 

子どもたちは、上のように部分剰余だけをかいて計算する。

 

(4)138÷23

 この段階で、はじめて長除法形式が導入される。

 

 138÷23では、最初、短除法と同じように、23×6の積を書かないで計算していたが、ためし算を別にかいてする代わりに被除数138の下に、ためし算23×6の積をかかせ、長除法形式の自然な導入を行った。

 

(5)768÷32

 この段階で、長除法形式が一応完成する。また、そのよさも発揮する。

 

 それは、計算内容が発展し、長除法形式を採らねばならぬ必然性を生みだしたからである。 

 このように、除法に於いても形式を静的、固定的に捉えないで、発展的、動的に捉え、内容との関連に於いて必然性の上で捉えなければならない。

 計算内容が九九1回の適用といった低次の段階では、暗算形式による除法が対応し、1位数で割る計算の中、九九を2回以上運用する場合は、短除法形式が暗算形式にとって代わる。そして、2位数で割る計算になると、短除法形式は発展した計算内容に照応しなくなり、長除法形式にその席を譲ることになる。

 

7. あとがき

 これを機会に、さらに“子どもの論理”を探ってみたいと思っています。時間の関係で、これだけしかまとめられませんでしたが、またの機会にこの続きをかきたいと思っています。

 大方のご批判を心から期待しております。ー1960.9.16ー

(おわり)

 

(研究要録1960年、P.3-11)