算数の学びと指導ー市原式

唯物弁証法の視点から算数教育を見直した小学校教師の著作集

さんすう すらすら(1)

Ⅰ. 算数ぎらい

—新幹線なみのスピード—

 

1. 教室のスナップ

 私の授業をこどもの作文で紹介しましょう。

“きょうは、2時間目に算数がありました。チャイムがなって少ししてから先生が、にこにこしながらはいってきました。わたしは「きょうも、おもしろい授業だな」とたのしくなりました。

 きょうの問題は、「男の子と女の子があわせて48人います。男の子の人数は、女の子の3倍です。男の子と女の子は、それぞれなん人でしょうか」というのです。

 わたしは、1回よむだけでわかりました。

48÷3=16  16×2=32  

とやりました。しばらくして先生が「できた人、手を上げてください」といったので、わたしはあててほしくて「あてて、あてて」といって手をあげましたがあててもらえませんでした。さわべくんと水谷さんがあてられました。

 さわべくんは、

48÷3=16  48−19=32

男の子32人  女の子16人

水谷さんは

3+1=4  48÷4=12  12×3=36

男の子36人  女の子12人

 水谷さんが黒板にかいたとき、わたしは「おかしいなあ」と思いましたが、まもなく、やっぱり水谷さんがあっとると思いました。先生が「意見のある人」といったら、永田くんが「水谷さんはどうして3に1をたすのですか」といいました。水谷さんが「男の子は女の子の3倍だから・・・・・」といいましたが、永田くんは「おかしいなあ」といいました。わたしは水谷さんにかわって「男の子は女の子の3倍だからもし同じ数に分けたら4組できるということです」と、指を使って説明しました。

 先生は、正しいことを1人ででもがんばるとあくしゅします。きょうは水谷さんとあくしゅしました。

 

2. 授業のテンポ

 私は小学校で算数だけを教えています。昨年から担任学級がなくなり、4年・5年・6年の1クラスずつ算数だけを教えています。ほとんどのこどもたちは算数が好きになったと書いていますが。4年生のH君は「ぼくも算数が好きになりたい」と書いていました。H君はまだ筆算の加減も十分にはできないのです。

 わたしたちの地域で採択された教科書で2年生の“たしざん ひきざん”をみると、26+7の型の計算に配当される時間が1時間(実質45分間)、32−8の型の計算も27+25の型の計算も、34−18の型の計算もそれぞれ1時間ずつで、おさらいとテストをふくめて合計5時間で指導することになっています。

 5年生の“分数の計算”でも1/2+1/3の型の計算が1時間、3/4ー2/3の型の計算と、1/2+2/3−1/4の型の計算をあわせて1時間、3/5×4、3/8×2の型の計算が1時間、2/5÷3、2/3÷4の型の計算が1時間といったテンポで指導することになっています。まさに“新幹線なみ”の授業テンポです。だから、5年生の分数計算で、加減で通分するときは分子・分母にある数をかけ、乗数が整数のかけ算では分子に乗数をかけ、除数が整数のわり算では、分母に除数をかけると教えられ、習ったときは理解したつもりでも、そのうちにこんがらがってしまう子が出てくるのです。どんなおけいこごとでも、ひととおり理解したからといってすぐ身につくものではありません。いまの授業は、自動車の動かしかたを1時間でひととおり習って、すぐに路上におっぽりだされるようなものです。

 それに一クラスの定員も多く、ひとりひとりのノートをすこしていねいにみてやっていると、それだけで1時間ちかくかかってしまいます。

 こうした過密教材、過密定員は指導法を改善してもなおついてゆけない子を生んでいますが、多くの学校で教師たちは集団で教育条件改善のとりくみをすすめながら、同時に劣悪な条件のもとでも、授業におくれがちな子をはげまし、いろいろな制約とたたかって、とりこぼしのない教育をめざしてとりくんでいます。

(つづく)

 

新聞「赤旗」に掲載。掲載時期は不詳。1980年代と思われる。