算数の学びと指導ー市原式

唯物弁証法の視点から算数教育を見直した小学校教師の著作集

10までの加法・減法を どう指導するか(1)

―鍛錬主義からの解放―

5を足場に、10までの加法・減法を分析し、操作を通して数理を導き、映像に訴えて定着させる。

 

1. はじめに

 しらずしらずの間に、鍛錬主義に陥っていることがある。

 従来の10までの加法・減法の指導がそうである。加法に例をとって話をすすめよう。まず、加法の意味を理解させるために、合併場面や増加場面を取り上げる。そして、加法の用語と記号を導入し、あとは10までの加法を繰り返し練習させる。そこでは2+1も2+3、5+3、6+2、4+3も全く同じように扱う。抽象数で計算できなければ、おはじきなどの具体物におきかえて答えを求めさせる。そして、それを繰り返す。これが従来の指導法であった。

 だが、このような指導を繰り返してもなかなか身につかない。子どもたちは、答えがわからないと指を折って計算する。2桁と2桁の計算になっても指を使う子どもがいる。しかし、それを克服する道は、ただ1つ練習を繰り返す以外に方法はなかった。すなわち、鍛錬だけが残された道であった。

 10までの範囲の繰り上がりのない加法だけでも全部で45通りあるが、それらを完全に身につけることは、子どもたちにとって相当な負担なのである。

 では、10までの加法・減法をどのように指導すれば、鍛錬主義から解法されるであろうか。

 

2. 5を足場に10までの加法を分析する

 従来の加法では、3+4も2+1、5+3、6+2も全く一律に扱ってきた。しかし、子どもたちの実態を調べてみると、2+1、3+2、5+3などの計算と、6+2、4+3などの計算との間に、明らかに難易の差があることを知った。そして、それは、2+1、3+2などの計算が、直観数の範囲であり、5+3などの計算は、指による数表示と結びついてやさしく、6+2、4+3などの計算は、直観数の範囲を越え、それほど簡単に答えが求められないことに気づいた。だから6+2、4+3の計算となると、いつまでも数えたしの方法にたよらざるを得なかった。

 そこで、わたしは、まず10までの加法を2つのグループに分けた。その1つは2+1、3+2、5+3などのグループであり、他の1つは6+2、4+3、3+6などのグループである。前者は、直観数の範囲である5までの加法と、5にいくつかたす10までの加法である。後者は、それ以外の10までの加法である。前者を基礎加法と名づけ、後者を、複合加法と名づけておこう。

 さて基礎加法からくわしく述べることにしよう。

 基礎加法は2+1のタイプと3+2のタイプと5+2のタイプに分けた。

 2+1のタイプには、1+1、2+1、3+1、4+1がある。これらは加数がどれも1の場合である。この計算は加法の導入で扱った。しかし、加数が1の場合のみを集中的に扱ったので、子どもたちは答えが数系列上で被加数のつぎの数になることをわけなくみつけた。子どもたちは指を使わなくても答えが簡単に求められるようになった。

 つぎに、5までの数範囲の加法のみを扱った。3+2のタイプである。このタイプには1+2、1+3、1+4、2+2、2+3、3+2の6通りがある。

もちろん、2+2、2+3、3+2の計算を重点的に扱った。直観数の範囲でもあり、抵抗はあまりなかった。

 つぎに、5にいくつかたす計算、5+1、5+2、5+3、5+4、5+5を指導した。この計算は“10までのかず”のところで、数の構成として取り扱ってきた内容でもあり、指で8を示すのに左手の指全部と右手の指3本をそえて示すことなどから、容易に身につけさせることができた。

 つづいて複合加法について述べよう。

 複合加法には、6+2、4+3、3+6のタイプがある。

 6+2のタイプには、6+1、6+2、6+3、6+4、7+1、7+2、7+3、8+1、8+2、9+1の10通りがある。この計算は基礎加法に帰着させて答えを求めることができる。6+2に例をとると、6を5と1に分け5+(1+2)=5+3と、いわゆる基礎加法1+2、5+3をつづけて行えばよいことにきづかせた。

 4+3のタイプには、2+4、3+3、3+4、4+2、4+3、4+4の6通りがある。この計算も基礎加法に帰着させて答えを求めることができる。4+3に例をとると、3を1と2に分け(4+1)+2=5+2と基礎加法4+1、5+2をづづけて行えばよいことに気づかせた。

 最後に3+6のタイプがある。このタイプには、1+5、1+6、1+7、1+8、1+9、2+5、2+6、2+7、2+8、3+5、3+6、3+7、4+5、4+6の14通りがある。この計算は、基本的には4+3と同じ算法で求められるが、加数が5を越えるので、その分解がむずかしい。しかし、1+5を5+1、2+7を7+2と交換法則に気づいて、既習の算法で答えを求める子どももいた。

(つづく)

 

(1970年代後半から1980年代。掲載雑誌は不明。「指導論説Ⅰ」より)