教具寸言(2)
最近、わたしは“おちこぼし”といわれる何人かの子どもを指導して気づいたことがある。それは、10までの加減計算を身につけさせるのに、ただ単に“おはじき”や“タイル”を使って答えを求めさせるだけではだめだということである。
それは、4+3を計算するのに、4個のおはじきと3個のおはじきを出して、それをまとめて数えれば答えは求められるけれども、それは、4+3の計算を意識してやっているというよりも、7個のおはじきを数えているだけだといった方がよいからである。
確かに、“おはじき”や“タイル”は、4+3の算法を導いたり説明したり、また、その計算のイメージを形成する足場としては有効な教具である。しかし、それらをいつまでも計算手段として乱用することは、かえって子どもの能力の発達を阻害することにもなるのである。
計算能力の発達は、そうした教具のたすけをかりながらも、それらの教具から脱却するところにあるといってよい。
また、教具の乱用は、子どもたちの自由で創造的な思考をさまたげることもある。
5年生に、平行四辺形や三角形などの面積を求める公式を導く教材がある。こうした公式を導くのに初めから教具をもち出して説明するのは好ましくない。まず、子どもたちに自由に考えさせ、あとから子どもたちが導いた公式の正しさを裏づける形で教具を示すのがよい。たとえば、左下のような教具を使って説明すれば、どんな平行四辺形でも、
(平行四辺形の面積)=(底辺)×(高さ)
で求められることを容易に理解させられるであろう。しかし、これでは子どもの創造的な思考をそだてることにはならない。
子どもたちに、高さの足が底辺からはみ出ている平行四辺形でも、(底辺)×(高さ)で面積が求められることを考えさせると、実に多様な考え方をするものである。たとえば、下の図のように対角線で切って次々と等積変形を繰り返せば、どんな平行四辺形でも長方形に変えられるというのである。紙面の都合でいろいろな考えを紹介できないが、こうした創造的思考を育てることこそ算数教育の重要なねらいであることを忘れてはならない。
したがって、教具を説明するための教具としてだけ利用するのではなく、子どもたちの創造的な思考をうながすような利用の仕方をくふうすることが必要であり、また、そうした教具を開発することが大切である。
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わたしは、教具について自分の実践をふまえながら、思いつくままにその効用と留意点について述べてきたが、要は、教材研究なしに教具の活用はあり得ないということである。
市販の教具を利用するにしても、自作の教具を利用するにしても、算数教育の本質をふまえ、教材を深く分析して、そこから生まれる教具であることが大切であるといえる。
(おわり)
(1980年代の掲載。掲載雑誌は不明)