算数の学びと指導ー市原式

唯物弁証法の視点から算数教育を見直した小学校教師の著作集

水道方式のさんすう(1)

 毎日新聞

“水道方式のさんすう”の紹介があってから

“水道方式とは、どんなものか”

という質問をよくうけます。

そのPRが

“みんな算数の優等生になる”というのですから、試験地獄に心を痛めておられる世のお母さん方の頭へきたのは当然です。

 今回、水道方式のさんすうをとりあげたのは、こうしたお母さん方の、ご質問にこたえるためです。

 そして、正しい算数教育の姿を、いっしょに求めてみたいと考えたからです。

 

水道方式の考え方をやさしく理解していただくために、寄せ算に例をとってお話します。

 今までの算数教育では、

 20+30、32+4、35+50、63+24

といった、やさしい計算は、暗算でやらせ、

 47+26、67+86、242+374

といった計算になってから、筆算のやり方を教えてきました。

 

 

(註)

暗算のやり方というのは、上の計算でいうと、63に20をよせて83、83に4をよせて87と計算するしかたで、数の大きさを念頭において、大きい位から寄せていくやり方です。

 筆算の方法は、よくご存じのように67+86であれば、一の位は7+6=13だから、一の位にまず3とかき、十の位はくり上がった1とそれに6と8とを寄せて15になるから、5とかき、百の位に1とかいて153とするやり方です。

 即ち、筆算は位取りの原理にしたがって一の位から分析的に機械的に計算する方法です。

 尚、教科書によっては、23+48とか325+153のように、くり上がり二回の計算や3位数の計算になってはじめて筆算を導くものとがあります。

 

 

 ところが、水道方式では、はじめから筆算の方法で教えた方がよいというのです。筆算の方法を一度理解すれば、あとどんな大きな数の計算でも同じやり方で答えを求めることができるからです。

 即ち、水道方式の考え方は、ある限られた範囲の計算だけにしか通用しないような暗算のやり方を先に教えないで、どんな範囲の計算にも通用するような筆算のやり方から教えた方がよいというのです。

 いいかえると、暗算という特殊な計算方法は、あとまわしにして、まず筆算という一般的な計算方法を先に教えよ、というのです。

 だから、今までの算数教育の方法は

特殊から一般へ

という方法であったのが、水道方式では

一般から特殊へ

ということになります。

 人間を理解するのに、赤ん坊や盲人の研究からはじめないで、健康で正常な成人からはじめよ、というわけです。

 この一般から特殊へという考え方が実は水道方式の根本的な考え方です。

 したがって、計算指導の体系も、3+4とか7+8といった十までの数の寄せ算ができるようになると、つぎの順序で指導します。

即ち、とか、という形の計算は、一般的であり、とかという形の計算は特殊であるというわけです。

 そして、この形がちょうどという水源地からとかという小水源地へ水が流れ、さらに、とかといった各家庭へ水が流れていく水道に似ているところから、“水道方式”という名がつけられました。

 この計算体系は、いままでの

  

という体系とは、大分異なっています。

 水道方式は、このように、その指導体系と指導法に於いて、今までの計算指導とは大変かわっていることがわかります。

 そして、たしかに水道方式が主張するように、筆算という計算形式は、暗算という計算形式に比べて、どんな大きな数の計算にも通用するというよさを持っています。

 また、筆算という形式をとる限り、という計算よりという計算の方が、子どもにもわかりやすく、まちがいも少ないことは、実際に教えてみて、うなづけます。2+2はこどもにとって、それほど抵抗はありませんが2+0には相当の抵抗があります。2+0を3とする子どもが、かなりいるのです。

 以上の説明から考えると、水道方式の計算体系は、全く非のうちどころがないように思われます。

(つづく)

 

(掲載雑誌は不明。1960年頃の著作と思われる。)