算数の学びと指導ー市原式

唯物弁証法の視点から算数教育を見直した小学校教師の著作集

子どもの論理(3)

 この9月15日に行われた岐阜県算数教育研究会の大垣市興文小学校の授業では、つぎの問題で指導してみた。

”1㎗45円のサラダ油、3.3㎗のねだんは、何円になるでしょうか。“

子どもたちは、1㎗45円のサラダ油、3.3㎗のねだんがおよそ45円の3倍になることから、1㎗45円のサラダ油、3.3㎗の正確なねだんは、45円の3.3倍になると考えた。

 そして、45円の3.3倍は、45円の3倍と、その10分の1とを加えればよいので

45×3=135

135÷10=13.5

135+13.5=148.5

と計算させ、45円の0.3倍は、45円を3倍して、10で割ればよいことに気づかせた。

 この考え方こそ、整数かける小数の計算法にそのまま結びつく考え方である。わたしたちが45×0.3を積算でするとき45×3を計算して135を求め、小数点を3と5の間にうつのは、135÷10の計算をしているのである。

 こうして45×0.3は45×3÷10で求められ、

45×0.2は、45×2÷10

45×0.8は、45×8÷10

45×3.3は、45×33÷10

45×6.3は、45×63÷10

で求められることを明らかにして、これを積算形式に結びつけた。

 さて、このときえらんだ問題では、第1に素材を、サラダ油にとって、1㎗という単位をもってきたことに意味がある。5月に指導したときは単位を1ℓにとったため、1㎗という10分の1の単位を考えることが、小数倍の計算法を知らない子どもたちの自然な考え方となったわけである。しかし、このときは、1㎗という単位を考えることの必然性を除き、45×0.3は45×3÷10で求められると導いたのである。

 第2は、問題の中でとりあげた数値を、45円の3.3倍としたことにある。5月にとりあげた65×0.3では、整数倍をよりどころとすることができなかったけれども、このときは、45円の3倍をよりどころにしてその10分の1を考えることが、手ぎわよい方法として子どもたちに納得できるようにしたのである。

 子どもたちの論理と教師のねがいとを一致させるためには、問題のもつ必然性を考慮しなければならない。

 そのためには、このように問題を素材の面からと、そこにえらばれる数の内容の二面から考える必要がある。

 2年生では減々法と減加法を指導するがこれも全く同じことがいえる。

 減々法を理解させるためには、“おはじきあそびをしています。はじめに12こありました。よしこさんが3ことりました。あといくつのこっているでしょうか。”---(A)

といった問題がよく、減加法を理解させるためには、

“12円もっています。9円のノートをかうと、いくらのこるでしょうか。”---(B)

といった問題がよい。

 (A)の問題では、おはじきの具体的操作から考えて、12こから1ことって11こ、2ことると10こ、3ことると9こと数え引く操作を足場に、12こから2ことって10こ、10こから1ことって9こと、極めて自然に減々法を導くことができる。

 しかも、そこでとりあげた数値からいっても、

10−3=7、7+2=9と考えるよりも、

12−2=10、10−1=9と考える方がはるかに容易である。

 (B)の問題では、おかねを支払うという現実的操作から考えて、10円出して1円のおつりをもらい、おつりの1円とさいふに残っていた2円とをたして3円と計算するのが自然である。

 加うるに、そこで取り上げた数値からいっても、9円を2円と7円に分解して、12円から2円ひいて10円、10円から7円ひいて3円と計算するよりも、12円を10円と2円に分解して、10円引く9円は1円、1円たす2円は3円と計算する方がはるかに容易である。

 わたしたちの学習指導が成功するかしないかは、実にかかってこの問題の決定にあるといっても過言ではない。

 そして、その問題の決定にあたっては、素材と数値の両面からくる必然性を考え、子どものねがいと教師のねがいとを一致させることが大切である。

(つづく)

 

(研究要録1960年、P.3-11)