算数の学びと指導ー市原式

唯物弁証法の視点から算数教育を見直した小学校教師の著作集

子どもの論理(1)

1. 子どもの論理

 

 下のような問題で、

(整数)÷(小数)の計算を指導しているときであった。

“先生、ちょっとおかしいことがある。”

と、突然Nが立ちあがった。

“先生、240×4.8のときは、240を10で割って24として、4.8を10倍して48として、24×48と計算してもよかったでしょ。

“そう、そうすれば0や小数点が消えて、計算が簡単になるね。”

わたしは、Nの質問に答えた。

“ね、そうでしょ。”

Nは、もう一度念をおしてから、

“だったら、おかしいよ。”

という。

“かけ算のときは、一方を10倍したら、もう一方を10でわるのに、わり算のときは、わる数もわられる数も同じように10倍するなんて不公平やないかね。”というのである。

 他の子どもたちも、

“わり算のときは、(かけ算のときとちがって)両方とも10倍しな、いけないことは、わかるけど、どうもおかしい。”

“両方とも10倍したら、答えも10倍になるみたいや。”

といいだした。

 これは、5年の子どもの論理である。

 わたしたちは、こうした子どもの論理にぶつかってずい分とまどうことがある。

 そして、ときにはおどろいたり感心したりすることがある。

 いずれにしても、こうした子どもの論理を知らないで、算数を教えることはできない。

 子どもたちの論理はいったいどのようなものであろうか。

 そして、わたしたちはどのように指導すれば、子どもたちの正しい論理を育てることができるだろうか。

(つづく)

 

(研究要録1960年、P.3-11)