算数の学びと指導ー市原式

唯物弁証法の視点から算数教育を見直した小学校教師の著作集

10までの加法・減法を どう指導するか(2)

3. 操作を通して数理を導き、映像に訴えて定着させる 10までの加法を5を足場に分析することによって、論理的にはすっきりし、また、系統的に易から難へと指導することが可能になった。このことは、以上の説明で明らかになったと思う。しかし、このままで…

10までの加法・減法を どう指導するか(1)

―鍛錬主義からの解放― 5を足場に、10までの加法・減法を分析し、操作を通して数理を導き、映像に訴えて定着させる。 1. はじめに しらずしらずの間に、鍛錬主義に陥っていることがある。 従来の10までの加法・減法の指導がそうである。加法に例をとっ…

教具寸言(2)

最近、わたしは“おちこぼし”といわれる何人かの子どもを指導して気づいたことがある。それは、10までの加減計算を身につけさせるのに、ただ単に“おはじき”や“タイル”を使って答えを求めさせるだけではだめだということである。 それは、4+3を計算するの…

教具寸言(1)

教具といえば、最新の教育機器から黒板やおはじきにいたるまで、教育現場で用いられる一切の道具をさしている。そして、教育効果をあげる上でそれらの教具の果たす役割は大きい。 もちろん、教具には市販のものもあれば、自作のものもある。また、教科独自の…

定着を確かにする練習の方法(5)

5. 集中法と分散法について 集中法というのは、休憩を入れないで連続的に練習する方法であり、分散法というのは練習のあいだに休憩を入れてする方法である。 学習心理学では、一般的には分散法が有利といわれているが、集中法がよい場合もあり、最近では条…

定着を確かにする練習の方法(4)

4. 全習法と分習法の効果的な使い分け 学習心理学では、練習のはじめには、分習法が有利で、練習が進むと全習法が有利であると述べている。 1年のくり上がるたしざんで、第1時は被加数が9の場合のみを扱い、第2時は被加数が8の場合、第3時は被加数が…

定着を確かにする練習の方法(3)

3. 合理的な型分け—群化の方法— 定着を確かにする上で、同じ型のものをまとめて練習することは効果的である。従来から、計算指導では、この型分けによる方法がとられている。 ところが、1年の10までのたしざん・ひきざんでは、10までの数の合成・分解…

定着を確かにする練習の方法(2)

2. 視聴覚的方法に訴える 定着を確かにする場合、視聴覚に訴えると効果があることは、よく知られている。 1年の10までのたしざん・ひきざんの指導では、ドット・カードを利用して効果をあげることができる。 まず、1から10までのドット・カードを利用…

定着を確かにする練習の方法(1)

1. はじめに —認識と定着とのかかわり— “定着を確かにする練習の方法”といっても、やはり、認識とのかかわりを無視することはできない。 学習心理学でも、理解学習と暗記学習では、理解学習の方が把握・定着がよいことは定説になっている。また、同じ理解学…

つまずきの診断と解消ー1年・計算分野(2)

3. つまずき・おくれの解消 さて、誤った理解・理解不足に基づく“つまずき”に対しては、個人カルテに基づいて、個別に指導することが大切である。その場合、形式的理解を急がず基本にもどって具体的事実と結びつけて理解させること。たとえば4+50を90…

つまずきの診断と解消ー1年・計算分野(1)

1. つまずき・おくれを累積させないために つまずき・おくれの診断と解消は、指導の過程でその都度行われるべきであって、学年の終わりになって、まとめて取りざたされる性格の問題ではないが、やはり1年のしめくくりとして総括的に診断し、その解消に努力…

例題主義の批判とその克服(3)

3. 一つの数理の発展段階では、演繹的方法が主役となる ここでも、まず実践例を紹介しよう。 先に紹介した6年生の“立体図形”の続きである。つぎの日、わたしは角すいをとりあげ、その頂点の数、面の数、辺の数について指導した。ところが、このとき子どもた…

例題主義の批判とその克服(2)

2. 新しい数理の導入段階では、機能的方法が主役となる まず、最初に実践例を紹介しておこう。6年生の“立体図形”を学習したときのものである。 わたしは、角柱の模型を見せながら、まずその頂点の数を調べさせた。 「三角柱の頂点の数は、いくつですか。」 …

例題主義の批判とその克服(1)

1. はじめに 数学といえば、演繹的な思考こそ、その本領であるという考え方がある。 けれども、小学校の子どもに、いきなり演繹的な思考を要求しても、これまた無理があることも常識となっている。そこで、従来からとられてきたのが、例題による説明である…

文章題指導における形式主義の克服(3)

5. 図や式は、必ずしも文章題解法の武器ではない 高学年になると文章題もむずかしくなり、いきなり答えを求めることはできないし、式さえ図や表をたよりにしなければな立てられないものが多くある。 しかし、低学年の文章題では、問題をよく読み、題意を正…

文章題指導における形式主義の克服(2)

3. 子どもの心に火をつけるために、まず、答えを聞こう 文章題のことを、一般に“問題”と呼んでいる。しかし、文章題を与えれば、それが直ちに“問題”として自覚されるかどうかは別問題である。 問題意識は、ある目的意識あるいは課題意識があって、その解決…

文章題指導における形式主義の克服(1)

1. はじめに “計算は得意だけど、文章題はにがてだ”という子どもが、かなりいる。 日数教が昭和51年9月に実施した“小学校児童の算数に対する意識調査”でも、算数科の学習内容の中で、文章題を嫌い・不得意とする子どもが最も多く、“文章題に対する児童の反…

教えたいことを 教えないで学ばせるには(9)

2. 暗算形式と筆算形式 暗算と筆算の関係も、こうした弁証法的な捉え方が必要です。ところが、暗算か筆算かということで二律背反的な論争が続けられています。 たしかに、83+48といった計算まで暗算形式で答えを求めさせることは、多くの子どもたちを…

教えたいことを 教えないで学ばせるには(8)

―その4 形式と内容― 1. 五・二進法の役割とその限界 一年生のくり上がりの計算をどう指導するかということで、“現代化算数指導法辞典”では“10の補数でやるものは、くり上がりの減加法にも一貫するし、9+2型など有利だが、これまでの5・2進法が生かせ…

教えたいことを 教えないで学ばせるには(7)

2. くり上がりの計算指導 わたしは、一年生のくり上がりの計算を、つぎのように指導しました。まず色画用紙で作った10個いりの卵パックに、画用紙で作った卵の形を9個貼ったのと、色画用紙のざるに画用紙の卵を2個、3個、4個、---と切り抜いて貼った…

教えたいことを 教えないで学ばせるには(6)

―その3 論理をどう導くかー 1. おしつけ授業とひきまわし授業 完成された数学が、極めて論理的な体系を具えていることから、算数の授業では、特に論理中心に子どもたちをひきまわす指導をよくみかけます。 第一のタイプは、子どもの思考を無視して教師の一…

教えたいことを 教えないで学ばせるには(5)

図形の概念もまったく同様です。「がようしの形をしらべてみましょう。かどは、どんな形でしょうか。」と言って一枚の画用紙について調べさせ、そこから直ちに「かどが、みんな直角になっている四角形を、長方形といいます。」と定義しても、それで長方形の…

教えたいことを 教えないで学ばせるには(4)

―その2 概念の形成― 1. 数学思想史から ピエル・プートルだったか“数学思想史”の中で、「出来上がった科学と、作られつつある科学とを区別しなければならない。」という意味のことを述べていたように記憶しています。 完成された数学と算数教育の違いも、…

教えたいことを 教えないで学ばせるには(3)

4. “整数÷小数”の指導 わたしは、何回か5年生を担任しました。5年生では、以前から、整数わる小数を指導することになっていました。わたしが、はじめて5年生を担任したときのことです。24÷4.8の計算は、下のように除数、被除数共に10倍して240÷…

教えたいことを 教えないで学ばせるには(2)

2. どのような素材をとりあげるか。 では、この減加法を“教えないで学ばせる”には、どのような素材をとりあげればよいのでしょうか。 それには、おかねを使うのがいちばんです。 おかねを使えば、13円もっていて9円のものを買うのに、3円を先に払ってか…

教えたいことを 教えないで学ばせるには(1)

ーその1 素材についてー 1. チューリップの授業 “教えたいことを教えないで学ばせる”には、その前提条件として、どのような素材をとりあげるかという問題があります。 ずいぶん、古い話ですが、わたしがかつてある小学校の校内研究会に招かれたときのこと…

教えたいことは 教えるな!(2)

2. 何年かすぎて それから何年かすぎて、わたしはまた一年生を担任することになりました。そして、同じ“たまいれ”の単元を指導することになりました。 算数の時間は、二時間目です。一時間目が終わると、わたしはつぎのように指示しました。 「二時間目は算…

教えたいことは 教えるな!(1)

―学習の焦点化と主体的学習― 1. "たまいれ”の学習 わたしが附属小学校で、一年生を担任していたときのことです。教生のA君が“たまいれ”という単元で、10以上の数の数え方と記数法を指導することになりました。子どもたちは、今日は“たまいれあそび”ができ…

算数教育に於ける教条主義の克服(5)

ここで<一般→特殊>方式による授業展開と<特殊→一般>方式による授業展開を比較検討してみよう。 わたしは、5年の(分数)÷(整数)を次のように二通りの方法で指導してみた。 [註] 水道方式では、(分数)÷(整数)は(分数)÷(分数)の退化した計算と…

算数教育に於ける教条主義の克服(4)

5. 発見学習では、<特殊→一般>方式の方がよい場合がある。 ここでも、まずわたしの実践を示そう。新しい指導要領では6年の教材となった対称図形の指導である。わたしは「線対称図形の対応する二点を結ぶ直線は、対称軸で垂直に二等分される」ということ…